「商品秘話」

寒干しラーメン誕生秘話 後編

2018.02.28

小麦の力を信じて

小麦粉には、伸びる・まとまる・粘るなど、さまざまな個性が宿っています。「お中元で一番人気があり、売れる手延べ素麺。これをラーメンでできないだろうか…」。素麺の性格をもっと理解し、あの揖保川のほとりで見た手延べ製法で、生ラーメンの乾燥したものを作ったら、今までにない商品ができるはず。いやむしろ、生ラーメン以上に味の良いものができるかもしれない。その一心で研究に研究を重ね、3年の歳月をかけ生まれたのが「非加熱低温熟成乾燥製法」の技術。小麦はグルテンを持つ唯一の穀物です。しかしこの、粘りやコシのもととなるグルテンは60℃以上の熱で壊れてしまいます。製造過程で熱加工が必要な麺は、添加物等で結着させなくてはなりません。

「ラーメンを素麺のように自然な製法で作りたい」。
製造過程で熱を加えず、小麦の力(リキ)を活かした強い麺。1、2月の寒風にさらした素麺のように、熟成させながら乾燥する製法です。冷涼な時期だからこそ、空中浮遊菌も少なく、急激な乾燥に見舞われることもありません。適度な温度と湿度によって作られることが、麺にはとても重要なことだったのです。

寒干しという製法

さて一方、ラーメンを製造する工程で、どうしても麺のロスがでてしまう場合があります。寒い工場の片隅に、そういった出荷できない麺が何気なく置かれていました。気づけばすっかり乾いています。「これを試食してみよう」。通常なら廃棄してしまうものを食べるなど、周囲は驚きました。けれど森一は真剣そのもの。食べてみると脳裏に描いていたような麺の仕上がりです。これをヒントに、森一の発想によって考案された「寒干しラーメン」。昭和61年、幾度も試作を重ねたのち、菊水の寒干しラーメンは産声をあげました。その製法は、当時の考え方のまま。じっくりと熟成させた生麺を非加熱で乾燥させることで、小麦本来の旨さを引き出しながら作られています。

寒風のなか、ひとり手延べをするおじいさんの横顔。その情景とともに胸に浮かんだ「寒干し」の文字。創業者 杉野森一が名付けた「札幌ラーメン寒干し」という、大きくロゴが描かれたパッケージには、そこに至るまでの苦労と奇跡の出会いが隠れているのです。

【写真:発売当初の商品パッケージ(昭和61年)】

寒干しラーメン誕生秘話 後編